小説

『最後の料理』NOBUOTTO(『銀河鉄道の夜、注文の多い料理店』)

 その時、画像がまた混乱した。そしてそこには金髪の女性の後ろ姿が写っていた。確かにさっきの女性だ。そして彼女の向こうのテーブルにリーがいた。いや、リーの首だけが転がっていた。
「ラポさん」ジョバンニが叫んだ時には、画像は消えていた。
「ラポさん。ジェシーさんがジェシーさんがリーさんを殺した」
「ジョバンニ君。まあ、いいから食べなさい」
 ジョバンニはとても食べるどころではなかった。手の震えが止まらない。それを見たラポは今までにないきつい言葉でジョバンニに言うのであった。
「いいから、ちゃんと、ちゃんと食べない」
 ジョバンニは料理を口に運んだ。恐怖に包まれていてもやはり美味しいものは美味しい。なんとか一口一口食べていく。
「最後の料理。人殺し。そしてこのラポという人は海賊と言っていた。あの話と同じだ」
「これは僕の最後の料理という意味かもしれない。この店は僕に何かを伝えようとしている。きっと逃げろと言ってるんだ」
 逃げたくてもどうすればいいかわからない。目の前にはジョバンニの倍も大きなラポがいる。頭の中が真っ白になっていた。
 ジェシーが壁の中から飲み物を持って出てきた。
「ラポ様、ジョバンニ様。最後の料理いかがでしたか」
「何から、何まで最高。特に肉料理は素材も味付けも吾輩の旅の中で最高であった」
「ありがとうございます。リーもさぞかし喜んでいることと思います」
「リーさん、リーさんと話しがしたいのですけど」
 ジェシーはきっとジョバンニを睨んだ。「しまった。これで僕は襲われる」小さく「カムパネルラ助けて助けて」ジョバンニはつぶやいた。
「リーは。父は」
 ジェシーが口ごもった。ジョバンニの体の震えは止まらない。「カムパネルラ、カムパネルラ」
「ジョバンニ君。ジョバンニ君」
 ラポが自分を襲って来ると思った。
「このコーヒもこの星でしか取れない豆で煎れられた実に味わい深いものである。君はホットミルクのようだね。さあ、温かいうちに飲み給え」
 震えの止まらない手でホットミルクを口に運んだ。ホットミルクはジョバンニの体と心を少し落ち着かせてくれ、勇気も沸いてきた。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11