小説

『マッチの火が消えれば』西野まひろ(『マッチ売りの少女』)

 少女は怒りが沸き上がったとき、その三人に自分が被った屈辱をそのまま仕返ししてやろうと考えたらしいです。しかし、「ヤる」には、自分には陰茎がついてないので出来ません。「犯す」にも、どうすれば最も屈辱的な犯し方があるのか、少女には分かりませんでした。そこで、一番分かりやすく、そしてその場ですぐに実行できたのが、「喰う」だったらしいのです。
 少女はまず自分に伸びてくる男の手に噛みつきました。歯に皮膚が喰い込み、気色の悪い感触だったみたいです。男は悲鳴をあげ、少女の口から手を振りほどき少女を蹴り上げました。しかし、何かに取り憑かれたように狂変した少女はそれで怯むことはなく、次はその男の首に噛みつきました。男の首からは血しぶきがあがりました。少女の歯が首の大動脈に達してしまったみたいです。男は悲鳴をあげながら、崩れました。黒々とした血を首から流し、小さく咽び泣きながら助けを求める男を尻眼に、少女は次に男二人を襲うことにしました。
 一人の男はいつの間にかどこかへ消えていってしまったようです。恐らく、すぐに危機を察して逃げたのでしょう。もう一人はというと、腰を抜かして地面にへたりこんでいました。そいつは呻きながら怯える子鹿のような男でした。少女はその男をできるだけ痛みつけるように様々なところに喰いつきました。鼻や耳、唇や指、とにかく平面から突起しているようなところを全て噛み切りました。終いには、陰茎までも噛み切ったようです。しかし、その時には既に男は絶命してしまっていたようです。非常に残念ですよね。
 さて、先輩方がご存知の通り、その少女は未だ捕まっておりません。
 しかも噂によると、その少女は快感になってしまったようなのです。どのようなことが快感になったのか、ですって? 亮平先輩、それはあなたのようにガクガクと震えて恐怖に怯えるド畜生な男性を貪り喰うことに快感を覚えてしまったんです。
 しかし、そんなことを繰り返してしまったら、大きな事件になってしまうし、足がつきすぐに捕まってしまします。そこで少女は自慰や自傷、ODをしてなんとか喰殺衝動を抑えていたみたいです。また、衝動を抑える方法の一つに、マッチの小さな火を見つめるなんてこともありました。衝動を抑えると言うよりは、快感の代替と言ったほうが正確でしょうか。マッチの火を一本、また一本とつけるたびに、不思議とあの時の快感が鮮明に蘇ってきて、股間を物理的に刺激しなくても素晴らしいオーガニズムを感じてしまうんです。そういったことで、汚い男共を喰う衝動を抑えていたようです。
ですが最近、そんな少女にある悩みができてしまったそうなのです。ふふふ、何だと思いますか? すごいっ、正解です。実は、少女は自慰行為やマッチの火を見つめるだけでは逝かなくなってしまったのです。逝かなくなるどころか、自慰行為をすればするほど、マッチの火を見れば見るほど、男を喰い殺したいという欲求がだんだんと高まっていくようになってしまったのです。
 喰いたくて、喰いたくて喰いたくて喰いたくて喰いたくて喰いたくて喰いたくて喰いたくて喰いたくて、たまらなくなってしまったのです。

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