小説

『発端』鈴木一優(『桃太郎』)

「続きがあるんじゃ。それから数年経ったごろ、桃太郎言う奴がきてぇの、奪い返したもん、奪い返されたんじゃ」
「お宝とかと? どげんして」
 首をかしげる百乃介。おじいさんはその質問に返すように続ける。
「桃太郎は奪われたものを奪い返しに来た言うて仲間連れて攻めに来たん。結果この街にはなーんも残らんかった」
「そーなんか。その桃太郎ってやつ、酷かぁな」
「百乃介は桃太郎が悪いやつば思ったか?」
「そげん、じっちゃんがせっかく奪い返したやつをまた奪ってくなんて酷いやんけ」
 話が一通り済んだと思ったのか、海を見て全身の力を抜く百乃介。そんな百乃介に新たな質問を問うと、何当たり前のことをと言うように立ち上がった。
「そう思うか。けどな、桃太郎はわし等が昔これらを奪われたことを知らなかったんじゃ」
「え?」
 おじいさんの言葉を聞いてキョトンとする百乃介。どういうことか聞こうとする前に、おじいさんの口は動いていた。
「人間がわしらから財宝を奪った時、まだ桃太郎は生まれてながったん。桃太郎が見たことあるんは、わしら鬼たちが財宝を奪って行くところだけじゃ。百乃介は、これでも桃太郎が悪いと思うが?」
 そう聞かれ、百乃介は少し考えた後、再びちょこんと座り込んで呟いた。
「思わん」
「ならわしらが悪いと思うが?」
「思わん」
 睨むように海を見つめる百乃介を見て、おじいさんは高らかに笑い始める。
「かっかっか、そういうことじゃ。百乃介と大島も。どっちも悪かぁない」
「お、同じ違うし。どんぐり先拾ったの俺で、生まれる前とか関係ない」
「同じじゃけ、百乃介は大島がこのどんぐりを先に見つけたのば知らんがった。大島は、どんぐりは先に拾った人のものになるぅ百乃介の掟ば知らんがった。そうじゃろ」
「あ、確かに……」
 おじいさんに言われ、肩を落とす百乃介。その表情はだんだんと曇り、一目で不安がられていることが分かる。
「じっちゃん、俺、どげぇすれば良かと?」
 そう聞かれたおじいさんは、微笑みながら再び百乃介の頭に手を乗せた。
「わしはの、あの後桃太郎のところば行って、話し合いをしたんよ。奪うんじゃなく、お互いに分かち合おうとな」
「分かち合う……俺にできっかな」

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