小説

『戦にまつわる干支セトラ』小塚原旬(『十二支のはじまり』)

 私は思い切ってトラックの荷台から飛んだ。高速道路の淵でワンクッション、そしてもう一度跳躍。
 東京湾を真下に望みながら、勇気を振り絞って空中で斥力を使い、もう一度ジャンプ!
 口を開けた姫乃さんの眼前がみるみる眼前に迫る。
「はあい」
 私は磁気引力でヘリの足につかまった。その手を引き剥がそうと私の手に組みかかる姫野さん、私はヘリのプロペラの脇に強力な重力場を生成させた。
 バランスを崩し、ヘリが大きく傾く。二人の体がもみ合いになった。図らずも、ヘリは西に向けて高度を落としていった。
「フェアプレイで行きましょ、うずらちゃん」
 私はヘリから飛び降りた。
 それでも姫野さんは諦めなかった。
 先端に分銅の付いたロープを投げてきたのだ。それが空中で私の左足に巻き付いた。忍者かよ!
 私は自分でも驚く程冷静だった。分銅を巻きついてきた方向とは逆方向に斥力で吹き飛ばす。絡まったロープはすぐに解けて、私はそれを両手でつかむと、力の限り引いた。
 姫野さんはヘリから落下した。下には剛と猿田が格闘しているトラック。丁度いいや。
 私は姫野さんと猿田の中間辺りに小さな重力場を発生させた。
「剛、上!」
 落下してきた姫乃さんに気が付いた剛は、すぐに猿田から離れた。逃げ遅れた猿田が、姫乃さんの下敷きになった。
 私は1号線を進むバスの上に軟着陸すると、姫乃さんが手放したロープを急いで手繰り寄せた。


 高速を走る車の上を飛び飛び、剛が私の所までやって来た。
「内野、怪我ないか?」
 所々顔を腫れさせた剛が、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「あんたこそ、ひどい顔よ」
「俺は大丈夫だ。いやあ、ぼたんから逃げてたら、随分と時間食っちまってよ……。でもまあ、良かったよ。お前が無事で」
「そ、そう……その、ありがとう……」
 何故だか、急に剛の顔を正視できなくなってしまった。どうしたんだ、私?

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