小説

『戦にまつわる干支セトラ』小塚原旬(『十二支のはじまり』)

「曲っっがれえええぇぇぇぇ!」
 分銅は避雷針の先で急に向きを変えると、園子の足めがけて飛んでいき、その左足に巻き付いた。
「ひゃっ?」
 空中で園子の体が急停止した。いきなりの出来事に事態が飲み込めない園子の真下に、私は残りのバッテリーの全てを使い切って、重力場を生成する。
 落下し始める園子の体とは逆に、避雷針で引っ掛かったロープの反対側にある私の体はどんどん上昇していった。
 ピー……
 バッテリー切れの電子音が鳴り響くのと同時に、宙を舞う私の体がゴールとなるフープをくぐり抜けた。


「以上の理由により、内野選手は失格となり、その段階での暫定順位が来年以降の干支に適用されます。子、牛、寅、卯……」
 悔しい気持ちで表彰台を眺める私に、剛が声を掛けてきた。
「結局、何も変わらなかったって事か。大きな力でも働いたのかね?」
「でもいいわ。園子より先にゴールをくぐった、それだけで今回は良しとするよ。見てよ、園子のあの顔。優勝台に立っているけど、あれ敗者の顔よ」
「ま、お前がそれで満足なら。それよりさ、レース中に俺のこと、何か言ってたよな?すごく格好いい的なこと……」
「え……そうだったかな?あー、でも彼女に悪いからさ」
 私が剛の後ろ側を指差した。
「まさか……」
 恐る恐る剛が振り返ると、そこには彼女が。
 走り出す剛と、それを追うぼたん。
 やっぱり、干支のラストは戌亥なんだな。

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