小説

『カボチャの馬車にお邪魔』洗い熊Q(『シンデレラ』『ぶんぶく茶釜』『金の斧』)

 白色に照らす灯が反射し、揺らめくように輝く長い階段。
 段差の小さな行程をシンデレラは確実に、そして必死になって下っていた。
 煌びやかなドレスを翻し彼女が振り返り見ると、絢爛な大時計台の針に視線が釘付けになる。
 ――もう直ぐに零時。
 大妖精に言われた、零時になると全ての魔法が解けると。
 この白いドレスも消えいつも見窄らしい服に。下に待つカボチャの馬車に御者も、ただのカボチャとネズミへと姿を戻す。
 このガラスの靴以外は全てが消えてなくなる――固くきっちりと彼女の足に収まる輝くガラスの靴。つま先に走る痛みを堪えながら、階段を下りる歩みを決して止めない。
「……あっ!」
 手で引き上げたドレスの裾にほんの足を取られ、転びそうになるシンデレラ。
 落ちまいとの勢いに、収まっていたガラスの靴の片方が背後へと高く舞った。
 思わずに振り返る彼女。
 白い階段に靴のこつこつと転がる音。そしてその音に重なるように、上段の最上にあるお城から漏れ聞こえてくる弦楽器の演奏達。
 ――とても楽しかった。
 振り返り見た城の姿に、先程までいた夢のような光景を重ね合わせる。
 突然に、唐突に。王子様の前から逃げるように来てしまった。それが彼女の後ろ髪を引かせていた。
 見つめ返した階段上方。見れば誰かが彼女を追うように下って来ていた。
 まずい、きっと王子様だ! このままだと見窄らしい姿を曝してしまう。
 その姿を見定めると、シンデレラは転がってしまった靴の片方を見捨てるように、また必死に階段を下り始めた。

 門間近で待っていた、星の様に輝くカボチャの馬車。
 シンデレラはその馬車の扉に、倒れ込むようにしがみつき開けた。乗り込み際に、彼女は悲鳴のように御者に向かって叫んだ。
「早く! 早く出して!」
 叫んで見た先。向かい合わせにある座席。

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