小説

『すてきなお家』逢坂一加(『みにくいあひるの子』)

 改札を抜けて、商店街とは反対方向に進む。ぽつんと立っているパン屋を通り過ぎれば、人気のない住宅街だ。街灯だけはちゃんと点いている。人の気配は、家の中だけにある。
 私の家は、もう少し先にある。

 取り付けた照明にスイッチを入れる。シャンデリア型の照明は、電球の数は多いけど、一つ一つ小さいため、今までのより薄暗い。けれど、味もそっけもない蛍光灯に照らされるより、ぐっと部屋が素敵に見える。天蓋付きのベッド、薔薇型の取っ手がついたクローゼット。
 ひんやりとした取っ手。壊れないのは分かっていても、つい、開けるときに緊張してしまう。中から、冷たい空気が出てきた。
 今日はここに、私の大好きなお洋服を入れるのだ。足元の段ボールへしゃがみ、蓋を開ける。フリルがついたシャツと、白とピンクのストライプが入ったジャンパースカート。絵本に出てくる、お姫様みたいな服。私のお気に入り。ずっと、あこがれていたお洋服。
 そっけない段ボールから取り出し、丁寧に形を整え、ハンガーへ通した。一つ一つ、大切だからこそ丁寧に扱っていたから、あっという間に時間が経ってしまった。
 そのことに気付いたのは、スマホが鳴ってから。
 カバンから聞こえる電子音に、私は血の気がさーっと引いていった。
 自分で設定したアラームなのか。それとも、あの人たちからのメールなのか。
 確認もせず、私は手早く荷物をまとめ、逃げるように家から出て行った。ちゃんと消灯と施錠はしたけれど。

***

 遅くなります、とメールで報告をしたのに、両親は私の帰りを待っていた。
 二本並んだ棒状の蛍光灯の下、四角いテーブルの上には、既に分けられた食事が並んでいる。そして、それぞれの一角に父と母が座っていた。
「遅かったじゃない、麻琴ちゃん。ご飯が冷めちゃったわ」
「すみません。仕事で……」
 あくまでも困ったように告げる母へ、私は頭を下げる。
 父は何も言わない。私が席に着くまで、ずっと腕を組んでいるだけだ。ただし、その時間が遅ければ遅いほど、眉間の皺が増えていく。

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