小説

『僕は惑星』義若ユウスケ(『よだかの星』)

 ずんずんずんずん迫ってきてとうとうクジラは僕をパクリとのみこんだ。と、その時、ちょうどクジラの腹のなかで反乱が起こっていたところだったらしく、革命の徒と化した小魚たちの体当たりによってクジラのわき腹に大きな穴が開いたのだ。
 これ幸い、と僕は小魚の群れにまざって外に飛びだした。
 僕はふたたび冷たい海に落っこちた。が、僕の身体は水に触れることなく、どこまでもどこまでも落ちていった。すこしクジラの中にいたあいだに海に小さな穴があいていたのだ。流れ星が降ったのだろう。
 僕は一直線に海底まで落下した。そしてグシャリ、と海底に突きささっていた隕石に激突した。その衝撃で身体から魂がポワリと飛びだした。
 海の穴はふさがった。むきだしの魂となり果てた僕は深海の海流にどかんとぶっとばされて気絶した。
 目がさめて、深海魚たちのあいだを数千年ほど彷徨っただろうか。
 ある日僕はどこか懐かしい感じのする岩を見つけた。それがかつて自分を現在のような境遇においやったあの流れ星だと気がつくまでに、そう時間はかからなかった。てっぺんにまだ僕の身体の衝突した痕がまるでアボカドの木のスタンプをガシャンと押したように、しっかりくっきり残っていたのだ。
 僕はこの憎き星に一発くらわせてやらなければ気が済まなかった。長い長い助走をつけて体当たりすることにした。した。
 ゴッツーンとぶっつかった拍子に星と僕が合体してしまったのはいうまでもない。
 小さな隕石が僕の身体になった。
 僕はすみやかに自転をはじめた。
 海はゆるやかに渦を巻きはじめた。
 一匹の提灯アンコウが流れに引き寄せられてきて、言った。
「君、小さな惑星さん、君はもっと回れ。もっともっと回れ」
 僕は回った。回りに回った。
 渦はだんだんと巨大化していった。
 巨大な渦の中心で僕は歌を歌った。
 惑星の歌だ。

 ワクワクするぜ
 惑星だもの
 僕は惑星
 回転するぜ
 グルグル回るが
 目は回らぬぜ
 グルグル回って
 渦巻き起こす
 僕は惑星
 ワクワクするぜ

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