小説

『REBOOTER / リブーター』結城紫雄(『変身』カフカ)

 以前会話の中心だったカズトはすっぽりと抜け落ち、その場に収まるものは未だ不在だった。今やカズトの一番近くにいるのが彼女ではなく玲や友人の白石であることが、母親の声に棘を纏わせている。
「カズくん、ちゃんとご飯食べてるかしら」「あいつなりに頑張ってるんじゃないか。お前が今まで少し甘やかしすぎたんだ」「母さん、から揚げおいしい」「お前がしっかり支えてやらんと、カズトはまたミートとやらに逆戻りだぞ」「カズくん好きだったからねえ、ごま油使うの」
 カズトの自立を喜ぶ父と母の会話がかみ合うわけもなく、会話は平行線をたどり交わらない。

 ある時白石と部屋で話していると、ドアがノックされた。
「カズト、いるのか」ドア越しに父の低い声がする。
「お前最近バイトしてるらしいな。結構なことじゃないか」
「なんの用だよ」
「母さんが入院した」
「え?」
「お前が中退してからずっとパートで働きづめだったからな。少し無理がたたったのかもしれん。大方、お前がバイトを始めてホッとしたから気が緩んだんだ。これでお前がまだミートとやらだったら一発殴らないといけないところだが、カズトが頑張ってるんだから父さんは何も言わん」
 母さんが、入院。ジョンプはどうなる。
「そうだ、母さんが前買ってきてた漫画雑誌な、父さんが買ってきてやるから名前教えてくれ」
 とりあえず心配事が一つ減った。
「お袋さん、大変だな」父が去った後、白石が気まずそうに声をかけた。
「あれ、お前ジョンプ自分で買ってたんじゃないの?」
「四回目から入店断られた。どうやら俺の顔はフルフェイスヘルメット扱いになるらしい」
「にしても」白石がしみじみと言った。「子はカスがいい、って言うけどあれ本当だったんだな」
 それを言うなら、と訂正しようとしたがやめた。確かに白石の言う通りかもしれない。

「まだその格好してるの」
 母が吐血した、と見舞いから帰った玲が青い顔で伝えた。

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