小説

『王様の選択』室市雅則(『裸の王様』)

 ドアを開けると一匹の白い猫が王様の足元をすり抜けて衣装室に入って行きました。
 猫は王様を一瞥しただけで興味も示さずに出窓に飛び乗って外を眺めています。ちょうど日が当たって気持ち良さそうです。全身が白銀みたいに輝いています。
 なあ、俺を見ても驚かへんの?
 猫は王様の方へと顔を動かすとそのまま寝転んでしまいました。
 ええなぁ。俺も一緒に寝たいわ。あ、行かなあかん。
 王様は一度、あくびをして部屋を出て行きました。
 猫は王様の背中を寝転んだまま見ました。

 通りは王様の衣装を一目見ようと大勢の人々が集まっていました。
 今や遅しと王様の登場を待ちわびています。
 うわっ、熱気がやばい・・・。
 王様、参りましょう。
 進行役が声をかけました。
 お、おう。せやな。行こか。
 王様達がパレードを始めました。

 どこからどう見ても裸の王様の登場に人々は驚きましたが、頑張って声をかけました。
 お似合いです!
 す、素敵!
 い、色男!
 みんな、すまんな。ありがとう。みんなの優しさに泣きそうや。こんな俺やのに。
 王様は涙を隠そうと下を向きました。
 すると進行役が足を止め、パレードが足踏み状態となりました。
 どうしたん?
 王様は顔を上げて進行役に尋ねます。
 大臣が・・・
 王様が前を見ると大臣がパンツ一丁で立っています。

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