小説

『王様の選択』室市雅則(『裸の王様』)

 なーんちゃって。冗談やで、冗談。
 進行役は胸をなでおろしました。
 かしこまりました。では、そろそろ。
 分かった。すぐ出るから。
 はい。あ、あの、しかし、王様。
 何?
 申し訳ございません。何でもございません。お忘れ下さい。
 ・・・分かった。
 進行役は足早に衣装室から出て行きました。

 王様が姿見に映る自分を睨んでいます。
 俺がアホやったな。アホに思われたなくて、『素晴らしい布や』とか抜かしたから、みんなが困ってもうた。本当のアホや。ボケや。王様、失格や。
 王様は出窓に向かい、外を見下ろしました。
 うわっ、めっちゃ集まっとる。
 王様は現実逃避をして、雲ひとつない青空を見上げました。
 雨、降らへんかな。
 王様の耳に王様の登場を待ちわびる人々の賑やかな声が届きました。
 みんな、心待ちにしているようです。
 王様は再び、人々の方を見ました。
 みんな楽しそうに笑顔です。 
 やらなあかんな・・・。
 アホな俺を見てもろて、アホな俺を晒すしかないんや。
 そいでみんなが笑ってくれるならラッキーや。でも、何にも言わずにみんな去っていくかもしれん。そうなったら・・・そうなる前に責任は取る。まずは今や。
 よっしゃ。
 王様は顔面を三回強く叩き、頬を赤くし、大きく息を吐いてドアに向かいました。

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