小説

『王様の選択』室市雅則(『裸の王様』)

 よっしゃ、着るぞ。アホと思われるよりマシや。
 王様はクローゼットにかけてあるシャツに手を伸ばすとドアをノックする音がしました。
 はい。あ、まあとりあえずこのままでええか。

 若くて真面目そうなパレードの進行役が王様を呼びにやってきました。
 王様、そろそろご出発のお時間でございます。
 そっか、ありがとう。ちょっとええかな?
 はい。
 進行役が衣装室の中に入り、王様の前に跪きました。
 何なりと。
 もうみんなも準備できとるの?
 はい。大勢の民が王様をお待ちでございます。
 いっぱい?
 はい、今日は素晴らしいお天気でありますし、ご衣装の評判が評判を呼んでおります。
 マジで?ヤバいな。今からキャンセルできひんよね?
 進行役が返事をする前にあり得ないと言った表情を浮かべたのが王様には分かりました。
 ウソ、ウソ。冗談やん。
 王様が誤魔化すように笑うと進行役も笑いました。
 良かった。そうにでもなってしまったら暴動さえ起きてしまいそうですから。
 え、そんなに盛り上がってんの?
 はい。
 マジか・・・。さっき大臣にも訊いたんやけど、一つええかな?
 はい、何なりと。
 進行役は顔を引き締めました。
 俺、裸ちゃう?
 進行役は真剣な表情のまま固まってしまい、眉ひとつ動かしません。
 王様も進行役をじっと見て、まるで時間が止まったようです。
 それに耐えきれなくなった王様が口を開きました。

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