小説

『桃井太郎と女たち』常田あさこ(『桃太郎』)

「自分でもそう思うわ」
 あんの重みを胃にずっしりと感じながら、よっこいせ、と、立ち上がった。

「いっせーの、せ!」
「あー!」
「じゃあ、桃井さんは、空井さんとで」
 わけのわからないうちに、人力車に乗せられた。大原邸の前から蔵小道へ。これでもか、というくらいに詰め込まれた観光メニューは、彼女たちの性格をよく表している。
 アクティブでアグレッシブな、強い女性。「鬼に金棒」とはよく言ったものだが、彼女たちは「金棒要らずの女たち」だと思う。
「金棒? 必要あります?」
「邪魔になるから捨てました」
「重いの、苦手なんですよねぇ」
 彼女たちが言いそうなセリフを想像して、こっそり笑った。今、私の脳内を見られたら、きっと叱られてしまう。

 人力車で乗りつけて、私服に着替えた彼女たちは、林源十郎商店へ、なだれこんだ。ここで遅めのランチタイムだ。
「倉敷でピザって、意外ですね」
「でも、おいしいわ」
「しかも、このお店、かわいくない?」
「ほんっと! かわいい! 女子のハートをわしづかみにしますよね!」
「みなさん、ワインとか、お酒とか、飲まれないんですか?」
 私が素朴な疑問を口にすれば、水戸さんがニヤリと笑った。
「これから、一大イベントがあるので」
「一大イベント?」
「プリンセスフォトです」
「は?」
「ウチら、これからお姫様になるんです」
「えっと、ごめんなさい。意味が……」

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