小説

『桃井太郎と女たち』常田あさこ(『桃太郎』)

「おはようございます」
 スッキリとした表情で現れた彼女たちは、昨日より一段と幼く見えた。

「お待たせしましたー」
「歩きにくいわ」
「すぐ慣れますよ」
 着物に着替えた彼女たちは、おそらく誰の目から見ても「美人」と言える。仕事仲間という意識が強かったため、今まで意識したことはなかったが、こうして改めて見れば、彼女たちはそれぞれ女性として魅力的であった。
「さて、どちらに参りますか、お姫様方」
 ふざけて問えば、恥ずかしそうに顔を赤くする。普段のさばけた雰囲気とのギャップは、私の顔も赤くした。
「川舟に乗りたいんです」
「あぁ、いいですね」
 今日のようなおだやかな日は、川舟流しにうってつけ。きっと気持ちがいいだろう。娘が小さい頃に乗って以来、数十年ぶりの川舟に気持ちが弾む。
 船頭さんや乗客の声をBGMにぼんやり景色を眺めていると、ここがどこで自分が誰なのか、わからなくなってくる。江戸時代だと言われれば、信用してしまいそうだ。
 夢見心地で舟を降りて、彼女たちに付いて行くと、甘い香りに包まれた。
「もちろんジャンボですよね?」
「ジャンボは手焼き限定やもんな?」
「桃井さんも、ジャンボにします?」
「え? あぁ、ええ」
 自分の顔ほどもあろうかという特大サイズ「むらすゞめ」を、彼女たちは、あっという間にたいらげた。
「あー……幸せ……」
「なんだか甘いものばっかり食べてますね」
「たまにはいいですよ」
「ジェラートは、さすがに無理やな」
「とか言って、岩佐さんのことだし、きっと食べますよ」

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