小説

『桃井太郎と女たち』常田あさこ(『桃太郎』)

「えぇ。そうですが」
「桃井太郎さん、略して桃太郎さん。そして私たちは、偶然にもサル、トリ、イヌなんです」
「どういう意味ですか?」
「岩佐さんがサル年、私がトリ年で、空井さんがイヌ年なんです」
「だから、年齢の話、やめましょうよぉ」
「ほんまや!」
「先ほど、きびだんごもいただきましたし」
「じゃあ、鬼退治でもしますか?」
「おともします!」
「いやいや、鬼退治って……」
「鬼はいませんが、機会があったら、岡山に遊びにいらしてください。私こそ皆さんにおともします」
「いいですね!」
「岡山、行ったことないです」
「私も、ないです」
「そういえば、私もないなぁ」
「じゃあ、ほんとに行きましょうよ!」
「いつにします?」
「桃井さん、いつ頃がいいですか?」
「私は、いつでも……」
 盛り上がる彼女たちを置いて、東京駅へと向かった。

「こんなにいただけません」
 そっと渡した一万円札を、岩佐さんは軽く拒否した。
「いえ、むしろ足りないくらいで……」
「そんなこと……ありがとうございます」
 彼女たちは、いつもこうだ。年齢差などを考えれば、全員分を私が払ってもいい場面。そうしないのは彼女たちが嫌がるからだ。年齢や性別など関係なく、自分の能力だけを武器に仕事をしている彼女たちは、もしかしたら、誰かに頼ったり甘えたりする術を知らないのかもしれない。

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