小説

『桃井太郎と女たち』常田あさこ(『桃太郎』)

「はい、セクハラ発言!」
 やっぱり指摘されてしまった。
「水戸さん、ああ見えてオタクなんですよ。『二次元に嫁がいるからいい』だとか『三次元の男には興味ない』とか言うんです」
「本人がそれでいいんなら、他人がどうこう言う問題でもないんやけどなぁ」
「まぁ、そうなんですけどね……」
「でも、お参りするってことは、水戸さんも出会いを求めているってことですよね?」
「そう思います」
「そうやろか?」
 数十分後。水戸さんが、ずいぶん興奮して戻ってきた。
「すごいですっ!」
「おみくじ引いたの? 大吉?」
「違うんです! 『廻廊』っていうところが、めちゃくちゃかっこよくて!」
「うん?」
「何かのアニメで同じような風景を見たことあるような気がするんですけど、何だったかなぁ……」
 両手をバタバタ上下させている水戸さんをバックミラーで確認(というより観察?)しながら、エンジンをかけた。
「お話は尽きないようですが、とりあえず出発しますね」
「ありがとうございます! それにしてもよかった! コスプレで撮影したら最高だと思うんだけど、あぁ、でも、さすがに神様に失礼かな……」
 岩佐さんと空井さんは、なんとなく笑顔を浮かべながら黙っていた。きっといつものことなのだろう。

 最後の目的地は、最上稲荷。順番から判断すると、空井さんの番だ。
「いってまいります」
 しずしずと鳥居に向かう空井さんには、縁結び祈願など必要ないように感じられる。
「空井さん、モテそうですけどね」
「あ、またセクハラ発言!」
「すみません!」
「まぁ、でも、桃井さんが言いたいことは、わかりますよ」

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