小説

『夜鷹の星』春日部こみと(宮沢賢治『よだかの星』)

 醜い夜鷹を、最初は鷹とて嫌っていた。けれども理不尽を言っても目に涙を溜めるだけで、いっこうにこちらへ刃向うことをしない夜鷹の、その被虐の貌が、鷹の中の何かを目覚めさせてしまった。鷹は夜鷹のその貌を想い出しては、猛った自分を何度も慰めた。いつの間にか、鷹の中の劣情は夜鷹にしか煽られなくなった。
 夜鷹はおれのものだ。
 逃げ出そうとしていたなんて、けしからん。
 そう思ったが、こうして『かぎろい』となった夜鷹を、今度こそ自分のすきにできるようになったと悦ぶこころが、少し優しくしてやろうという気にさせた。
 自分が夜鷹の華奢な躰の上にかぶさるように寝ていたことに気が付くと、鷹は身を起こして夜鷹の名を呼んだ。
「おい、起きろ。夜鷹」
 けれども夜鷹はその大きな瞳を開けることはなかった。
 それどころか、ぴくりとも動かない。
 ぎくりとした鷹は、大声で夜鷹を呼んだ。
「おい、夜鷹、夜鷹――――」
 そう揺さぶる躰はひどく冷たかった。
「夜鷹……?」
 自分の声が震えていることに、鷹は気付かなかった。
 そっと血の気のない唇に手をやったが、生きものの証である、温かな息はなかったのである。

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