小説

『○取物語』室市雅則(『竹取物語』)

 お爺さんに見つけられた後、まずはお爺さんに月側が用意していた金をごく自然な形で配布し、自分が所属する家族の生活基盤を安泰させ、不自由なく健康と美容に良いものを食べさせてもらって、三ヶ月くらいで良い感じの娘に一気に成長して、巷間で類なき美しさとかで評判になって、五人くらいのイケメンに求婚されて『困っちゃう』なんて言いながらもニヤケ顔で無理難題をふっかけておきながら、地元に帰るつもりだった。
 なのに、のっけからこれだ。
 器と中身の違いに戸惑っており、自分を派遣した月側の怠慢っぷりに呆れている。

 さて、どうしようか。
 この狭い竹の中には自分しかおらず、誰も手を差し伸べてくれない。
 元凶をとりあえず指先で弾いてみる。
 ピコンと動いただけで終わった。
 小憎たらしくて睨みつけるも、相手は涼しい顔をしたままだ。
 そうやっていると、もしかしたら取り外しが可能かもしれないと思いつき、試しに刀を抜くように握って引っ張ってみる。
 外れる気配は全くない。
 そもそも簡単に外れたら苦労はないし、簡単に外れたら困るものなのだろう。
 しかし、諦め悪く、もしかしたら捻って外せるタイプなのかもしれないと思いつき、捻りながら引っ張ってみた。
 痛いだけであった。
 涙が出た。頭にきた。
 こんなものはいらねーんだよ。とヤケになって全体を鷲掴みにして、目一杯の力でもぎ取ろうとしてみる。
 めちゃくちゃ痛くて、すぐに手を離した。
 鈍い痛みが残ったことで違和感が増して気持ち悪い。
 体が熱くなり、額に脂汗が滲んだ。
 密室である竹の中の温度も上がり、青臭さがきつくなった。
 しかし、まだ取り外し可能説を捨てきれない。
 こんなにも自分の心と体の不一致を感じるのだから。
 引いて駄目なら押してみなということで、手のひらで股の間に押し込めて、太ももをぎゅっと閉じる。
 見事に股の間に消えた。

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