小説

『あるところにマッチ売りの少女がいました』砂山じんた(『マッチ売りの少女』)

 あるところにマッチ売りの猫がいました。気まぐれなので売れたところでもともと気にしませんでしたから枕元にマッチを置いて後は丸くなって眠っていました。ほそぼそとマッチは売れましたしとくに価格などは明記していませんでしたがいつしかその土地にあるものの一つとして定着し眠っていてもその日を過ごせるようになりました。今までのマッチの仕入れ値を考えるとぎりぎり損をしているようなものだったのですがこれからのことや気まぐれ故の性質を考えれば妥当だと言わざるを得ませんでしたしはっきりいえばこれが一番の幸福に繋がっていました。

 あるところにマッチ売りの大人がいました。大人が近づいて物を売って来る時点で引かれてしまうところがあるので少しでも怪しさを軽減する為にパフォーマンスの一環を装い拾った笛を吹きつつジャグリングでもして見せていたらとあるオーディションに行くようすすめられしぶしぶ付き添いで顔を出したそのオーディションで何故か本人を差し置いて賞を取りほどなく欠員の出た舞台のオープニングアクトを務めることになり続いて演劇でマッチ売りの役をするというので了承してマッチ売りの素質を褒められマッチ売りの役でマッチを売っていると心のなかが浄化されるのを感じました。

 あるところにマッチ売りの。

 あるところに。

 あるところ。

 皆にも身近にイノウエや銅像や関係者がいたらいいですね。

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