小説

『人魚姫裁判』柘榴木昴 (『閻魔大王』『人魚姫』他)

「ふむ……」
 閻魔が頷く。地獄の裁判員裁判では量刑も裁判員で決める。だが基本の処遇方針は閻魔が評決と各意見をもとに判断を下すのが通例だった。
「わかった。決議といこう」
 思い出したかのように木づちをかんかんかん、と打ち鳴らした。評議室にも設置してあるのは閻魔の趣味だ。
「人魚姫は」
 全員が息をのんだ。
「天国、地獄ともに受け入れない。即刻人間界に転生とする」
 全員の目が見開く。すぐにマッチ売りは顔がほころんだが李徴が追及する。
「閻魔様、おれは人間界で虎になって苦しんだ。人間に戻りたかった。今だってそうだ。罰を受けるべき人魚姫が人間界になぜ転生できる」
「ふむ。まさにその罰、だよ李徴。いいかい。おまえは人間だったが虎になって苦しんだ。人魚姫はもともと半獣半人だ。それが人間になるのだって苦痛だと思ないか。逆もまた然り、という発想だ」
「ぐるる……」
「ミスタ・閻魔。転生しても王子さまはもういないんじゃありませんの」
「ふむ。故に恋以外の点が試される。同じように魔術やクスリに頼って物事を解決しようとするなら、今度は間違いなく地獄行きだ」
「ふふふ。人間界には天国も地獄もあるが故、どうなることやら、だ」
「人間界は保釈期間、ということですか」
「ふむ。Kよ。幸いにしてお前のような地獄に行くべき人間がこうして場所を変えて私の右腕になってくれている。物事は二者択一でなくてもよいではないか。おまえがこうして今地獄の門で働いているように。曖昧な気持ちを持ちながら生きることは悪ではない。悲しみも優しさも同居しているのが人間というものではないか」
 Kが閻魔の灰色の瞳から目をそらす。
「真っ二つになった評議だ。納得はいかんかもしれんが落としどころだと思うがな。他に異論はないか」
 李徴はしぶしぶ、マッチ売りの少女は元気よく、ジュリエットは小さくため息をつきながら、魔法使いはゆっくり大きく、イカロスは納得した様子で。
 そしてKは自分の固く握った手を見つめながら小さく、頷いた。

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