小説

『それからそれから』広瀬厚氏(夏目漱石『それから』)

「ヤッホー代ちゃん、おひさーー!」
 なんと、テスタロッサを運転していたのは三千代であった。中から無邪気に手を振っている。呆気にとられる代助に彼女は続け言った。
「良いでしょこれ。新しいパパに買ってもらったの。ねえ代ちゃん、良かったら今から一緒にドライブしない?」
 どの道行くあてのない代助は、三千代の誘いに乗り、フェラーリの助手席に乗りこんだ。
「さあ、行くわよー!」と三千代は、アクセルペダルを踏みこんだ。フェラーリは、キキーッ! とタイヤを激しく軋ませ発進し、車道をみるみる矢のように加速していった。
「代ちゃんどこ行きたい?」
「・・・・地獄」
「オッケー! 地獄へドライブねっ」
 代助は三千代の運転する真っ赤なフェラーリテスタロッサの横に乗って、このまま地の果て地獄まで行ってやろうと決心した。

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