小説

『玉梓』末永政和(織田作之助『雪の夜』)

 風に吹かれると、それらは卵を中心に、細い糸のように、薄い網のように連なった。紛れ込んだ雪のひとひらが、その上に散りかかった。それは夏の夜に一度だけ咲く、カラスウリの花のようだった。
 温泉の熱気と、石灯籠を揺らす風とが、カマキリの季節感を狂わせたのだろうか。この世界しか知らぬそれらは、きっと疑いを抱くこともないのだろう。冬の厳しさの中で生き抜こうとして、灯籠の火に焼かれるものもいた。自然に身を任せて、風に飛ばされるものもいた。押し出されるように生まれ来る者たちは、その刹那に命を燃やし、雪のように消えていくのだった。
 痩せきった妻の体を思った。出会ったころの肌の白さが、拾い集めた遺骨の白さが思い出された。どれも坂田にとってはかけがえのない、大切なものだった。
 ただ悲しかった。
 風がまた強く吹いて、いくつもの雪片が舞い込んだ。炎が揺れて、影が大きく揺らいだ。他に生き方を知らないカマキリたちは、真っ白な体をほてらせたり凍えさせたりしながら、闇に溶けていった。たとえ目の前に死が横たわっていようと、それらは次々に生まれ来るのだった。

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