小説

『ドッペルゲンガー』植木天洋(芥川龍之介『人を殺したかしら?』)

 私はもしかするとあの時、ハサミを使った時に、彼女を殺してしまったのかもしれない。保健室で、手当が間に合わなくて死んでしまったのかもしれない。だから誰も何も言ってこなかったのかもしれない。今ではその記憶も曖昧になってしまった。彼女にとってのドッペルゲンガーは私だ。
 カッターを押し当てた手首から、私の血が、つうと流れた。絨毯の上にぽつぽつと落ちる。彼女の血がそうだったように、点々と。

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