小説

『平和な時代に勇者はいらない』松みどり(『桃太郎』)

「桃太郎、犬君が所属している『わんプロダクション』から電話あったよ。お前と直接話がしたいそうだ」
「犬もソロでの活動が厳しくなったのかな?でも芸能プロダクションとか興味無いや」
鳴り続ける電話にお爺さんとお婆さんは頭を悩ましたが、当の本人の桃太郎はどこ吹く風でストイックにひたすら筋トレに励んでいる。
 半年が過ぎ、桃太郎の体重は80KGになり、体脂肪は15%になった。
「半端ないっす!」トレーナーの平さんは驚喜した。
「そうか?でも目標は70KGなんだけどな。まだ道は遠いよな」
「って言うか、その身長で70KGの体重だとガリガリで不健康です。今が理想っすよ。スーパーアスリートの肉体っす。」
「そうか?」桃太郎はいい気になった。
「やっぱり存在がチートっていうか、勇者ってガチで凄いっすね!」
 桃太郎は驚きながら平さんを見つめた。
「平さんは俺の正体に気がついていたのに、トレーニングに集中させるためにあえて触れないでいてくれたのかい?」
 平さんは首を横に振った。
「いや、最初はこの巨漢は生活習慣病で早死にするなとしか思っていなかったす」
 思いやりゼロの発言である。
「でも、桃太郎さん根性あるしスゲーなって思ってた頃に、SNS『ささや木』で桃太郎さんの写真や動画が拡散し始めて、いちいちハッシュタグで桃太郎?とかついているから、ひょっとして、ヤバい人なのかなってネットで検索したんです」
「そもそも俺の事を全く知らなかったの?」
「自分、新聞とか読まないんで!だけど巴は初めて会った日から気づいてたみたいっす。でも、すごいっすね。鬼ヶ島に鬼退治とかって!よくやりましたよね」
 巴さんが初めて会った日から自分の事を『桃太郎』と認識してくれていたなんて!鬼ヶ島に鬼退治しに行ったかいがあった。やはり巴さんとの出会いは運命なのである。
「あの頃は鬼を退治して、この国を平和にするのが俺の夢で情熱だったんだ」
「マジで鳥肌立ちますよ!でも、これから命の危険も無く好きな事して暮らせますね」
「そうだね。実は気になる人がいて結婚を前提に交際を申し込みたいんだ」
「マジっすか!可愛いっすか!」
「可愛いというか神レベルだ。平さんも知っている人だよ。ヨガ講師の巴さんだ」。

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