小説

『A Boy Behind the Shutter』植木天洋(『オリバー・ツイスト』)

「ツバメはね、お母さんたちが餌をとってきて、こうやって子供たちに与えるんだよ」
 器を半分に割ったような巣に包まれて、我先にと口を開けて餌を待つ雛の写真があった。彼はなんだか少し寂しげな目でそれを見下ろして、自分が開いていた写真集に目を戻した。
 何度目だろうか、彼に電話をした時、母親に在庫になってしまっている文房具を処分してはどうかと提案してみた。もちろん捨てるというわけではなく、在庫品買い取りのショップ等を通して処分するという意味だ。
 店舗として商売をするつもりがないのなら、在庫は売り払って多少でもお金になった方がいいだろう。フリマでガラクタを並べるよりまとまった金額になるはずだ。
 しかし母親はまったくといっていいほど関心を示さず、はあ、はあ、と繰り返すだけだった。なんだか生気のない口調だった。水商売風の外見だったのでもっとキツい性格だったり言い方だったりするのかと思っていたら、彼女もまた抜け殻のような感じだった。
 五度目のフリマの時、まつながくんはすっかり慣れた風に商品を並べはじめた。在庫処分について関心のない母親にもきちんと報告をして、店舗内の在庫品を少しずつフリマに出すようにした。
 ノートやボールペンは人気があり、近くに美大があることもあって「ケント紙とかありますか」という問い合わせに店舗まで戻って紙の束を抱いて戻ってきたりした。美大生らしい青年はごっそりとケント紙を買っていって、満足そうな様子にまつながくんも嬉しそうだった。
「何かみたい物があったらみてきていいよ」
「ううん、ここにいる。おみせばん、楽しいから……」
 だから、私に先に休憩にいってきていいよ、と彼は言った。お会計は電卓があるし、大丈夫だよ、と。
 この五ヶ月で、まつながくんはずいぶん変わった気がする。前向きになって、自分から行動を起こすようになったし、自分の意見を言うようになった。何より嬉しいのは笑顔が増えたことだ。
 私は「それじゃあ」と言ってほかのブースを見て回ることにして、手作りのイヤリングや七宝焼きのペンダントヘッドなどに目をとられた。
 出店のたこ焼きを彼の分も一緒に買って熱いうちに一緒に食べようと急いでブースに戻ると、黄色いジャケットを着たあまり人相のよくない中年男性がしゃがみ込んでいた。まつながくんの頬はひきつっていて唇をかたく結び、明らかに拒絶、恐怖している。
「どこもいっとらんのだろう、学校? うちのフリースクールやったら、中学卒業まで面倒みるから。難しいことはないよ、普通に国語や算数とか勉強して、運動して……、まあ、共同生活にはなるけどなあ、それも併せて教育っていうやつだ」
 物言いやニヤついた表情に一瞬でピンときて、胸に熱いものがすっと立ち上がった。
「何をしているんですか?」

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