小説

『生贄』志水崇(『魔術』芥川龍之介『夢十夜』夏目漱石)

 誰かが私の名を呼んだ。
 はっと気付くと、私は洋館の応接間で館の主と向き合ったままだった。
 「改めて伺いますが――」
 主が言った。
 「あなたにとって、一番大切な〈何か〉とは、なんだったのですか?」
 私は、主の問いに答えず、もう一度後ろを振り返った。
 黒々とした影が静かに私を見下ろしていた――。

1 2 3 4