小説

『砂塵のまどろみ』化野生姜(『眠い町』『砂男』)

…そうだ、あの山を進んでみよう。きっとその向こうに何かある。
そうして、足を一歩踏み出したとき、突然周囲の景色ががらりと変わった…。

「ちょっと、何してるの?魚が焦げちゃうでしょ。ふざけてないで早くして。」

気がつくと、私はコンロのふちをつかんで立っていた。
私はあわてて母に言われた通りグリルから魚を出す。
幸い、魚は焦げてはいなかった。
しかし、母は私の方を見ると苦言を漏らした。

「ああ、腕汚れているじゃない。ここはもういいから洗ってからまた来なさい。」

そう言われ、私は自分の腕を見てから小さく声をあげた。
いつのまについたのだろう。
分厚いセーターをめくった二の腕。
そこから手首にかけて細かい砂粒が貼り付いている。
それは今しがた見て来た砂漠の砂を思わせる、黄色い砂であった…。

…食事を終え、風呂に入ったあと、私はベッドの上で寝返りを打っていた。

時刻は夜の三時をまわったころ。
…本来なら、眠っていなければならない時刻。
だが、目をつむろうとするたびに祖母がトイレに起きて廊下を歩き回る音や、自分が仕事で上司に叱られる光景を思い出し、目が覚めてしまう。

…困る、これでは困るのだ。眠らなければ、明日のためにも寝なければ…。
そうして再び寝返りを打ちながら、私は顔を枕に押し付ける。

そう、私が頑張らなければならないのだ。

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