小説

『砂塵のまどろみ』化野生姜(『眠い町』『砂男』)

…そう。できるのは、この状態を維持することだけ。

何しろ、今は高齢化社会なのだ。
ケアを受けるべき人間はこの市だけでも溢れるほどにいる。

「まだ、この家はましな方なのよ。これ以上大変な家だってたくさんあるし、これが普通。わがまま言っちゃあいけないわ…。」

祖母を居間につれていき、台所に戻った私は疲れきった顔の母にそう諭された。

そう、母との会話は、いつもその繰り返し…。
これからも、じっとこの状況に耐えて行く毎日。
私は、次第にがんがんと頭全体に広がっていく激しい痛みをこらえつつ、母の手伝いをする。

そうだ…病院に行く時間はない。病院に行くお金もない。
耐えねばならないのだ、この状態に。
…でも、いつまで?

「魚、焼けたころだから出して。」

…私は、母に言われるままに焼いた魚をグリルから出そうとする。
しかし、グリルの取っ手をつかもうとした瞬間、ふいにひどいめまいを感じ、私はよろけてコンロのふちにつかまった…。

…気がつくと、目の前に砂漠があった。
砂漠はどこまでも広がり、風によって砂が巻き上げられる。
そうして、ひときわ大きな風が吹くと、砂の向こうに何かが見えた。
それは、巨大な砂の山だった。いくつも連なる砂山の丘…。
私はそれにひどく興味を魅かれた。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15