小説

『冷蔵庫の中の女』洗い熊Q(『雪女』)

 その子が高校生と思ったのもそうだ。その年頃の子が好みそうなコート。足下は黒いタイツで大きめに見えるブーツ。
 街中によく居そうな格好の彼女。だから女子高生と思った。だから驚いた。
 街が遠くないとはいえ訪れるには不自然すぎる姿の彼女だったからだ。
 彼女の背中に吹き付ける雪がフードの頭頂部を白く染め、石灰のような様相だ。
「ど、どうしたの? まあ、とりあえず中に入って……」
 やや戸惑いながらも僕は彼女を家へと引き入れようと招いた。
 彼女は頷き、無言で家の中へと入って来た。後ろから見た彼女の背中も雪で真っ白だ。
 吹き付ける吹雪を押さえ込むようにし扉を閉め切り振り返れば、部屋の温かさで彼女に付いていた雪の白さが見る見る消えてゆく。
 あっと言う間に彼女のコートはびっしょりだ。
「とりあえずコート脱ぎなっ。暖炉近くに干せば直ぐ乾くから」
 彼女が何故ここに来たのか。それよりも体調の方が気になっていた。
 こんな吹雪の中を歩いて来たなら凍えていて当然。先ずは暖まって貰わないと。
 そう思ってコートを受け取ろうと手を差し出すと、彼女は嫌な感じをさせずに小さく頷いたように見え、コートを脱いでくれた。
 コートの下、思った通りというか彼女はブレザーの制服姿。茶髪のふわりとした長い髪は本当に今時の女子高生だ。
 何でこんな所に……そう思わずにはいられない姿。
「暖炉の前に行きな。今、タオルか何か持ってくるから髪や身体を拭いた方がいいよ。寒いなら毛布とかも用意できるからさ」
 彼女を暖炉の前へと誘い、受け取ったコートをハンガーに通して吊す。水気を吸ってぐっしょりで重たい。
 直ぐに僕はバスタオルと毛布を取りに行く。取り帰ってくると彼女は暖炉の前の床に、ちょんと体躯座りをして待っていた。
 僕は近場にあったクッションを手に取り彼女に差し出す。
「これ……クッション、使って良いよ。あとバスタオル。それで寒いようならこの毛布を使って」
 無言で彼女は小さく頷き、全部を受け取るとタオルで軽く髪を拭いていた。
 ――不自然きわまりない。
 でもおかしいとも思いながらも、雪まみれの姿を見て断る理由もなく家に入れてしまった。
 だが少し落ち着いて思えば、何かしらの理由で置き去りや、道に迷ってここに辿り着いたのかも知れない。
 そう考えれば、彼女を保護する必要がある。

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