小説

『魔術師』おおのあきこ(『魔術師』)

「ビックリすることばかりだな、おまえ」
「いやいやいや、これは正真正銘のビックリなんです」
「いままでのは正真正銘じゃなかったのか?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど、とにかくビックリなんですよ。その日、ようやくオレの順番が回ってきて、いよいよステージに上がったわけですよ。いちおう、変身したいものがあったら事前にお知らせしておくことになってるんですけど、オレは魔術師に一任することにしました」
「ふうん」
「そしたら、なにに変身させられたと思います?」
「知らねえよ」
「ネズミですよ、ネズミ!」
「それ、よろこんで言ってる? それとも不満だったわけ?」
「いや、よろこんでるとか、不満だとかっていうんじゃなくて、とにかくオドロキだったんです」
「そりゃ驚くだろうな、ホントにネズミに変身したら。アハハ」
「いやいやいや、まさかほんとに変身したわけじゃないと思うんですけど、でもなんだか、すごく変な感じがして。だって、なんだか、ほんとにネズミになったような気がしたから」
「催眠術でもかけられたか?」
「いや~、それはないと思うんですけど、なんていうか、その、ほんとにネズミになったような……」
「なんでそう思うんだ?」
「だって、自分のからだがみるみるちっちゃくなって、全身毛に被われて、いきなり魔術師の姿が巨大化した……ような気がしたから」
「……なんだそりゃ?」
「で、魔術師にしっぽをつまみ上げられて……」
「しっぽ……?」
「そう、しっぽ。しっぽをつかまれて、宙ぶらりんにされて。ゆーらゆら、ゆーらゆら。巨大な魔術師の顔の目の前で。もう、なすがままです」
「おまえ、なに言ってんだ?」
「魔術師がすごく意地悪そうな顔をしたのを見たとき、またなんか、こう、股間がうずいて――」
「おまえ、それマジでヤバイよ。薬だよ。薬物。違法薬物っての? なにか飲まされたろ?」
「いや、なにも」

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