小説

『白雪姫前夜』伊藤なむあひ(『白雪姫』)

                    8、

 その狭い部屋の中には女の子がいた。
 真っ白い肌に、真っ黒い髪の毛、真っ赤な唇の美しい女の子だ。
「あなたはだあれ? どうしてここにきたの?」
 そんな女の子が目を輝かせて男に聞いてきた。
 男は一瞬女の子に見とれた後、これまでのことを話した。
 車でここに来たこと、
 途中でトランクの話を聞いたこと、
 看板を見付け車を降りそれを読んだこと、
 そうしたらいきなり襲われてここに連れてこられたこと。
「それは災難だったわね」
 女の子はその話に興味を失ってしまったのか、そっけなくそう答えてすぐに話題を変えた。
「ところであなた、ここから出たい?」
 女の子は男が肯定する前にここから脱出する計画を話し始めた。
 女の子の計画はこうだ。
1、真夜中、女の子が部屋の外に呼び出される
2、男は扉が開いたときに死角になる位置に隠れる(扉は内開きのようだ)
3、女が戻ってくる。男が部屋にいないと騒ぐ
4、奴らが確認するために部屋に入ってきたら女の子がその隙に部屋の外に出て外から鍵をかける
5、女の子が助けを呼んでくる
 とても完璧な計画とは思えなかったが、他に方法も無さそうなので男はそれに同意することにした。それになにより、明日の昼には男は殺されてしまうのだ。実行するより他はない。

                   9、

「じゃあ、あなたからどうぞ」
 そう言って女の子はその年齢にしては大人びた仕草で男に促した。

 君はいつからここにいるんだい?
→いったいいつからいるのかはっきり思い出せないわ
→わかいのにこんなところに閉じ込められてかわいそうに
→にげるチャンスがくるなんて思わなかった
→ただまあ、上手くいくかはまだ分からないけどね
→ねえ、足音が近づいてきた、静かにして
→(手を握るなんていったいいつ以来だろう)
→うそ
→そうだった方がよっぽどマシなんだけど
→どきどきする?

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