小説

『怪物』和織(『フランケンシュタイン』)

 孝雄さんはよくそう言う。彼は自分で自分の面倒を見る為に僕を造った。僕は彼のメイドだ。でも十歳の少年の姿をしていて、身長は百三十センチほどしかない。高いところでで作業するにはツールが要るし、キッチンでの仕事用にベンチも置かれている。僕の骨組みは身長の調節が可能だが、足や腕がその都度伸縮するようには造られてはいない。これは明らかに非効率的だ。だから、家の中で変形する分には問題ないのでは?と進言したことがある。
「窓から誰かに見られでもしたら大変だ」
 孝雄さんはそう言った。見られるとまずいのは、近所の人々には僕を人間と思わせているからだ。仕事用のアンドロイドとは違い、僕にはシリコン製の人型ボディが装着されている。そのボディも、今年十歳の設定で新調したばかりだ。六歳の設定で造られ、二年ごとにボディを新しいものに変えている。一つのボディに対する骨組みの収縮対応が五センチまでなので、骨組みを十センチ伸ばす度に、ボディを新調する必要があるのだ。確かに、僕の腕や足が伸び縮みするのを誰かに見られたりしたら、すぐにアンドロイドだとバレてしまうが、でも僕はそういう可能性を事前に排除して行動することができる。自分の作ったAIなのだから、孝雄さん自身もそれはよくわかっている筈。そう言っても、彼は横に首を振った。
「それでも、万が一ってこともある。それにお前は女除けとしても機能してるから、絶対に人間で、俺の息子でいてもらわないと困る」
「女除けとは?」
「独り身で会社経営してるってだけで、寄ってくる女は結構いる。俺はもう恋愛も結婚もごめんなんだよ」
「子供がいても、あなたが独身であることには変わりないのでは?」
「少なくとも、子供が嫌いな女は排除できる」
 確かに、孝雄さんのルックスは平均値より優れていると言える。それに彼は技師としての才能と同じくらい、部屋を散らかすという能力にも長けている。だから僕は、メイドと女除け、この二つの自分の役割をきちんと果たしてる、筈だった。しかし近頃は、何か他に重大な役割を与えられてるという考えが、確立されつつある。生命というものを僕らが理解できれば簡単なのかもしれないが、僕らには五感も感情もない。できるのは感知と推測だけ。ポジティブなものとネガティブなもの、愉快な状態と困難な状態。それらを認識することはできるが、体感することはできない。全ての振る舞いが、ただの真似事だ。
「今日、豚の角煮が食べたい」
 掃除機をかけていると、孝雄さんがそう指示をしてきた。

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