小説

『ビーフジャーキーと猫』広都悠里(『七匹の子ヤギ』)

 あたしを途中で捨ててしまったことを悔やんでいるの?
 過去の自分が中途半端だったと思っているの?
 聞いたらきっと薄く笑って「さあ。何のことかしら」ととぼけるだろう。

 なんか、あっけなかったな。
 ちゃんと生きていたんだね。
 公園のベンチにねそべってぼんやり思う。
 感動の再会とか、謝罪の言葉とか、期待していたわけじゃない。そんなことをしてもあたしの十数年が埋まるわけじゃない、事実は変わらない。
 うおーんとあくびする。
 もういいじゃん。
 あたし、猫だし。
 おかあさん以外の人に、かわいがってもらえるし。
 おかあさんもちゃんと居場所があるみたいだし。
 それにしても、笑っちゃう。
 まったくおかあさんらしいよ。あの言い方。
 まあかわいい、なんて甘い声出して抱きしめて頬ずりなんかされたら、きっとひっかいていたな。
 ひっかいてやったら、少しは気が晴れたかな。
 おかあさんを傷つけることができたとうれしく思えただろうか。
 笑っていいんだか、泣くべきなのかもわからない。
 おかあさんはいつもあたしの心をぐちゃぐちゃにする。

 目が覚めたのは、おひさまがかげってあたりの空気が冷たくなったからだ。冷え切った体を両手でこする。
 両手?
 あれ?
 あたし、猫じゃない。
 立ちあがってえ? え? え? と自分の足や体を見回す。

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