小説

『ごめんなさいね』吉倉妙(『マッチ売りの少女』)

「どうして泣いているの?」
「お母さんだけしか分からないから、こっそりなんだよ」
 厚くて大きな篤志さんの手が、サツキを抱きかかえてくれたのでしょう。
 サツキの足音は、こっちへ向かってきませんでした。

「ごめんなさいね、ごめんなさいね」
 何度も繰り返し謝りながら、私はずっと溜めていた涙を流し続けました。
 この涙がエネルギーになって漂って、物言えない子達の力になったらいいのに……。
 そんなありえない奇跡を心から真剣に願い、いつしか両手を顔の前で合わせて……。

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