小説

『Okiku_Dool』植木天洋(『お菊人形』)

 一日でどれくらい短くなるか? 最初から測っておけばよかったと後悔しながら、引き出しの中のメジャーに思いを馳せる。今や、計る必要もないほど明らかに髪は短い。人形の中が空洞になっていて、中に在る「何か」が徐々に髪を引っ張っていって…。仕事中に、余計なことを考えてしまう。実は名匠の手にかかった凄いカラクリ人形で、内部のギヤで髪を巻き上げたりして自在に髪を伸ばしたり短くしたりできるとか…。フォトショップで画像を切り貼りしながら考える。
「やっぱりね、短いのよ」
「なにが?」
 思い切って彼に言ってみると、彼は怪訝そうに返した。
「人形の」
「ああ、髪? 短いの?」
「うん、短い」
 私は人形を手に取り、顔を彼に向けるようにして持ってみせる。彼が人形をじっと見る。
「うん、短いね。切ったの?」
「切ってないよ」
「切ってないの?」
「ないよ」
「あら」
 あら。ちょっと猫が通りますよ。なんて具合に彼がぽろりとこぼす。
「いいんじゃない?」
 受け入れたものに対しては、彼は恐ろしいまでに寛容だ。寛容を越えて無関心のようにも思えてくるからまた怖い。
「よくないでしょ」
「でも短くなるんでしょ。そんなもんよ」
「えー、そんなものじゃないですよー」
 私は頬をぷうっと膨らませる。幼稚な仕草だとはわかっているが、やんわりと抗議しつつウケを狙いたいときにたまにやる。
「絶対おかしいって」
「気にせん」
「私が気になるの!」
「するな」
「気になりますー」

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