小説

『Okiku_Dool』植木天洋(『お菊人形』)

 会話がぐるぐると周回運動を始める。彼は煩悶しているようだった。日本人形なんて(無断で、許可無く、却下したにもかかわらず)買ってきたのはなんでなのよ? 彼は理解に苦しんでいるようだった。
「慣れるよ」
「そうかなぁー」
 彼は疑わしげに声を漏らす。私は開き直って、強引に人形を本を背に置いた。意外といいじゃない。改めて思う。本の中には江戸関係の資料も揃っているし、そこが一番居心地がよさそうだった。彼は諦めたように「もー」と言っているが、彼がどんなに反抗しようが彼が勝手に私のものを捨てることはない。繰り返しになるけれど。彼はそういう分別を持っている。だから人形が私の不在の隙に捨てられることはないだろう。彼は人形のある生活に慣れるしかない。受け入れるしかない。私のやり方が強引に感じられるかもしれないけれど、日本人形に私にそこまでさせる何かを感じたのは確かだった。なんとなく気になる。なんとなくからすごく気になるになって、こっそり日本人形を買うことになる。そうやって人形は我が家に落ち着いた。

「少し髪が短くなってない?」
「伸びたんじゃなくて?」
 人形を指差す私に、彼がディスプレイから目を離さずに返す。
「見て見て」
「うーん?」
 彼はそう唸ると、ディスプレイに未練を残しながら人形に目をやった。私が持ってかざしている。
「変わらんめ」
「変わったよ!」
 私は頑固に言い張った。骨董屋で購入した日本人形の髪が少し短くなっていたのだ。それはほんの少しで、気のせいかも知れなかったけれど、確かに買った時の記憶よりは短いのだ。
「買った時はこのへんに髪の毛の先があったのね」
 そう言って私は人形の胸の上、鎖骨の少し下あたりを指さす。
「今は短い」
「気のせい」
「気のせいじゃないもん!」
 また私は言い張って、じっくりと人形を見なおした。人形を傾けたり、髪を撫でたり、少し分け目を作ってみたり。
「やっぱり短いよー」

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