小説

『桃太郎外伝 なよ竹のかぐや姫』長月竜胆(『桃太郎』『竹取物語』)

「何やら物々しいな。来た時とだいぶ雰囲気が違うぞ。まるで戦でも始まるようではないか」
「どうやら、御門が派遣したかぐや姫の護衛隊らしい。月の使者を迎え撃つ気なんだ」
「下手をすれば大変な戦になりそうだな。用事も済んだことだし、さっさと町を出た方がいい」
 次郎の提案に、桃太郎は無言のまま、屋敷を見つめていた。
「お前、まさか……」
「このまま放ってはおけないよ」
 まだ何も見出せていないというのもあったが、何よりも、悲しそうに笑ったかぐや姫の顔が、桃太郎には忘れられなかった。
 そして、すぐにやってくる次の満月の日。桃太郎は再びかぐや姫の屋敷を訪れていた。
「まさか、桃太郎殿にお力添え頂けるとは心強い。どうか、娘のそばに付いていてやってください」
 翁は嬉しそうに言い、安心した様子で部屋を後にする。
 翁が去ったのを確認すると、かぐや姫は桃太郎に近寄り本音を明かした。
「桃太郎様、お気持ちはありがたく思いますが、あなたはお帰りになるべきです。本当は、他の兵の方々にもこんなことはしてほしくありません。力で抗えるものではないのです」
 不安そうに訴えるかぐや姫に対し、桃太郎は優しく微笑む。
「私は争うためにここへ来たわけではありません。私が戦う理由は、いつだって奪うためではなく、守るためです」
 普段通り、穏やかな雰囲気を見せる桃太郎だったが、次郎だけは気付いていた。その目に宿る、決意の光に。
 その日の夜は、雲一つない満月の夜だった。かがり火も不要な程の明るさで、物々しい警備の様子がよく見える。屋敷の外も内も見張りだらけで、特に厳重な庭周辺では、翁も落ち着きなく身構えていた。桃太郎、次郎、かぐや姫のいる部屋まで行くためには、そこを通らざるを得ない。まさに蟻の這い出る隙もない、徹底した警戒ぶりだった。
 不気味な程静かな夜。深夜になり、月が最も高い位置に上がった頃、唐突にその時は訪れた。
「何だ、あれは……月をご覧ください!」
 誰かの叫び声が響き、皆が一斉に空を見上げる。満月に目をやると、その中央に青い光が浮かんでいた。星のようでもあるが、月に重なって輝く星などあるはずもない。青く輝く不思議な光は、流星のように夜空を走り、屋敷の庭へと降り立った。
 眩い光が消えた時、そこには一人の青年が立っていた。厳密には、足は地についておらず、空中に立つように浮かんでいる。銀色に輝く着物をまとい、妖しく微笑をたたえた美しい青年だった。

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