小説

『Boxes 』吉田大介(『浦島太郎』)

 圭太は返していた踵をまたもとに戻し、
「何だよママ、最初にプレゼントだって言ってたじゃん!金取るの?結局ぼったくりの店かよ!」
 圭太は声を荒げたが、すぐに落ち着いて、箱の並んだ棚に近づく。
「わかったよ、どれか買っていくから自分で選ばせろよ」
 一番下段にあるショッキングピンクの箱に引き寄せられる。圭太は自分で手に取ってシールを見る。『ムフフの箱』と記されている。むふふ、とは古典的なフレーズだが、刺激的な何かを得られそうだ。終電の時間も迫っているのでこの箱に決め2万円を出した。するとママも自分で作った雰囲気に飲まれているのか、やけになっており、
「財布の中身、全部出しな!」
と脅してきた。
「それはないよママ・・・」
 圭太が最後まで言い終わらないうちに、
「もう、そのお金、どうせ外の世界では使えないよ。300年は経っているわ」
「ああ、わかったよ、じゃ3万円!恐い人たちを連れて来られると嫌だからね!もう来ないよ、この店には」
 捨てぜりふを吐いて店のドアを押す圭太。
「あ!決して開けてはいけませんよ、その箱は!!」
 ママの叫ぶ声が、閉まるドアの音と同時に背後で聞えた。
 地下鉄の駅へ急ぐ。高い金を払わされた上に「開けるな」とは上等。店のやり方に、憤りを超え、尊敬さえ感じながら歩道を走る・・・
 いや、圭太は歩道を歩いているのではなかった。歩道がすごいスピードで動いている。500メートルずつくらいの間隔で歩道上部にスキャナーのようなものが付いており、ピ、ピピッ、という音とともに赤いレーザーが身体に当たる。
「マジで未来に来ているのか・・・」
 圭太を乗せたコンベアーはY字路で彼を左に選り分ける。どこかへ運ばれていくのだ。沿道に人が何人か立っているのが見える。よく見ると皆、同じ顔をしており、ロボットのようだ。
「きっと人工知能に支配された世の中になってしまったんだ・・・核戦争が起こって地球はロボットの手に・・・」
 ママの言っていた、AIロボの玉手箱がいいという言葉を思い出し、そう思い込む圭太。
「このまま労働に駆り出されるんだオレは・・・ママの言っていた箱にすれば、AIロボとして支配階級になれたんだ・・・」
 想像は悪い方へ膨らんでいく。

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