小説

『カラスの真実』長月竜胆(『小ガラスと大ガラス』)

「あなたは良いね。人間たちから特別扱いされて……」
 すると大ガラスは首を傾げながら言った。
「君は何か思い違いをしていないか。特別扱いと言っても、それはあくまで不吉の象徴としての話だ。決して歓迎されるものではないぞ」
 それに対し、カラスはムキになって反論する。
「それでもいいじゃないか。私なんて、まるで風景の一部でしかないように、全く相手にされないんだぞ。人間には私たちの美しさも分からない。あなたのように皆から恐れられるならどれだけいいか」
 もはや理不尽なばかりの妬みのようでもあるが、自尊心の強いカラスにとってはそれが全てだった。相手にされないということが何よりも屈辱なのだ。そんなカラスに対して、大ガラスはつまらなそうに言う。
「それならごく簡単な話ではないか」
「何だって?」
「風景の一部のようにしか扱われないのは、君が人間に対して何ら影響を与える存在ではないからだ。つまり、もっと実効的な行動をとれば、誰も君を無視できなくなるだろう」
 ごくごくシンプルな正論。しかし、自分に問題があるという発想のなかったカラスには、思いもよらない答えだった。この瞬間、カラスの心の中で何かが大きく変わり始める。
「……なるほど。そうか、確かにそうだ!」
 カラスは大きく頷くと、何かを思い付いたように勢いよく飛び去って行った。
 この日を境に、カラスは生まれ変わったのである。必要なのは実効性。実力を示せばいいのだ。そしてカラスは、人間の物を盗んだり、家畜にちょっかいを出したり、畑やゴミなどを荒らしたりするようになった。人間からすれば、どれもつまらない犯行。カラスを恐れるというよりは、鬱陶しく思うだけである。それでもカラスは満足していた。もう見下されることも無視されることもないのだ。
 それから時は流れ、科学が著しい進歩を遂げると、対称的に占いや予言の類は衰退していった。それに伴い、人々から恐れられていた大ガラスの威厳も失われていく。カラスはそんな大ガラスの二の舞とならないよう、日々努力と工夫を怠らなかった。知恵を磨き、新しい悪戯を考え、人間の罠も次々とかいくぐり、今日もまた挑み続けるのである。

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