小説

『白い部屋』柿沼雅美(『赤い部屋』)

 隣の愛未ちゅんを見つめると、肌がつるりとしていて、CMなどで卵肌などとうたっているのはこういうことか、と分かるし、肩までの長さの髪は、これまでの写真でみるよりも一本一本がずっと細く柔らかかった。真っ白い部屋だからか髪の艶が布と同じような光沢を放っている。明るいのにキャンドルをつけている意味は、愛未ちゅんの甘ったるいような匂いを増長させるためだったんだと分かる。
 これから退屈を感じるたびに、もしくはどうしようもなく落ち込んだときに、今日を思い出すんだろう。愛未ちゅんのこの匂いとか、二人しかいない部屋の雰囲気とか。そうだ、今度ちょっとかっこいい眼鏡を買ってみてもいいかもしれない、そんな思いつきをしただけで、明日からのどこかに楽しい出来事があるんじゃないかという期待が持てた。
 「愛未ちゅんはさ」
 と、また話をはじめようとしたところで、目の前が一瞬ジラついた。ん、と思ってまばたきをすると、隣の愛未ちゅんが黙ったまま下を向いていて、目線の先にある綺麗な太腿にかかったスカートのプリーツが、風も吹いていないのに揺れた。両太腿の隙間は、ジリジリと斜線が入るように見え、なんか目がおかしい、と思うと、目の前が真っ暗になった。
 わぁああ、と思わず声をあげた。瞼を開いているはずなのに、真っ暗だった。耳からガサガサガサガサッと音がして、急に冷気を感じた。失明したのではないか、動こうとして体が括り付けられていることを思い出して、括り付けられたまま上半身をぐいぐいと揺らした。
 はいはいはいはい大丈夫だから、と男の人の声が聞こえ、頭を抑えられた感覚のあと、視界が開けた。
 落ち着いて、はい落ち着いてください、と肩をとんとんと撫でられ、プチンプチンと足と手の結束バンドを切られた。僕はなんだかよく分からないまま深呼吸をして息を整えるしかなかった。
 目の前には、愛未ちゅんが来る前と同じ光景があった。6人の男が丸いテーブルに沿って座っている。僕がさっきまでされていたのだろう手足を椅子にくくられた状態で座っている。
 「これって!」
 僕が混乱したままふり返ると、後ろには、肩を叩いてくれただろう男と、長テーブルにさらに男が4人座っていて、そばにはスタッフのはずの女性が立っていた。
 「ちょっと声のトーン落として」
 テーブルでパソコンを開いてこちらを監視しているような男が言い、僕は、ぜったいに悪くないはずなのに謝った。
 「ちょっと不具合でしたね、申し訳ないっす」

1 2 3 4 5 6 7 8