小説

『白い部屋』柿沼雅美(『赤い部屋』)

 「あ、そんなときもあったね、覚えててくれてるんだね、嬉しいー」
 愛未ちゅんはそういって、両手の指先を顔の前で合わせた。アイドルらしい反応だった。
 「今日は来てくれてどうもありがとうね」
 「こんなに直接会って話しができるなら何かプレゼントを持ってくればよかったな」
 僕が心底残念に言うと、そんなそんなぁ、と右手を顔の前でふった。
 「いいよ、こうやって、わざわざ愛未のところまで来てくれただけで十分嬉しいよ」
 首を少し斜めに傾けて言う顔がたまらなくかわいい。
 「あの、他の人たちはどうしたんだろう?」
 僕が聞くと、愛未ちゅんは、あ、うん、と首をこくっと頷かせた。
 「なんかね、一人一人でお話できたほうがいいよねってスタッフさんとお話しててね、でもまわりに他の人がいると素直に話せなかったり、恥ずかしかったりするかもしれないから、みんなには出て行ってもらって、順番に会えることになったんだよ」
 あ、そうなんだ、と愛未ちゅんを見つめながら、もう他の奴らなんてどうでもいい、と思った。
 「それに、ごめんね、こんな手足縛ることして、痛い?」
 顔を近づけて聞いてくる愛未ちゅんに、大丈夫だよ全然大丈夫! と返した。そのまま膝の上に乗っかってきたりしないだろうかと期待したが、さすがにない。
 「よかった。一応、女の子と男の子だからってことで触れないようにってルールなの」
 「そうだよね。そのほうが安心だし、僕もいいと思うよ」
 思ってもないことを言うと、愛未ちゅんは安心したように椅子に座り直した。
 「ありがとう、優しいね。今日はせっかくだから私が悩みでも聞こうかな」
 「え? 悩み相談? 今日は愛未ちゅんがこれからやっていくためにファンの意見を聞くっていう会って聞いてるんだけど」
 僕は鼻がかゆくなってかこうと思っても手があげられないから、我慢して一度だけすすった。
 「そうだけど、せっかくこうやって二人でいるんだし、私だってもっとどんな人が知りたいし、興味あるなぁ。だめ?」
 だめ? と言った表情があどけないのにどこか誘っているようにも見えて、僕は、全然だめじゃない! とすぐに言った。
 「じゃあ今の悩みをどーぞ」

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