小説

『白い部屋』柿沼雅美(『赤い部屋』)

 信用されていないのか、テーブルの上にあった真っ白い布のナプキンを目に当て、上から手で覆うように言われ、僕たちはしかたなくそうした。いいと言われるまで目を開けてはだめです、と何かの昔話みたいに女性の声だけが聞こえた。
 なにこれ、という声が隣の男から聞こえ、何をされるんだ、と身構えた。
 僕の番になったのか、背後でごそごそと音がし、目のまわりが重くなった。両手を椅子の背もたれにそわせられ、結束バンドのような細いもので固定された。足も同じように固定されて、耳にも何か詰められた気がする。なんだかとんでもないところに来てしまったんじゃないかと今更思った。
 少しして隣の男が、おぁなにこれ、と声をだし、僕の番は終わったと分かった。
 目を開けていいですよ、という女性の声と同時に目を開けた。なんてことはない、キャンドルの意味がないくらい部屋が明るくなったくらいで、さっきと同じテーブルと部屋の光景が見えるだけだった。でも僕以外の人がいなくなっている。6人はいったいどこに行ったのだろう、と思った矢先、隣の椅子に如月愛未が座っているのが分かった。
 僕は、飛び上がりそうになって、ええええっ、と声をあげた。固定されて飛び上れない体が椅子を持ち上げそうになった。
 愛未は緑系のチェックの制服のスカートを履いて、白いシャツにスカートと同じ色のリボンをしている。まるで、僕と愛未が放課後にカフェでデートをしているような光景になっていた。
 愛未ちゅん、と呼ぶと、彼女は、はーい、とかわいい顔で僕を下から覗き込んだ。
 「愛未ちゅん、ってなに? ちゃんじゃないんだ?」
 不思議そうに言う愛未ちゅんに、僕は、焦りながらこたえた。
 「あ、えっとそれは、前に、すずめがちゅんちゅんしててかわいいって書いてたことあったよね? そのときに他のファンの人が、すずめちゅんと愛未ちゅんかわいい、とか返信してて、そしたら愛未ちゅん、じゃあ一緒にして愛未ちゅん、って呼べばいいよ、って書いてあったから、僕らの中ではいつもちゅん付けで呼んでるんだ」
 僕は、自分は一体何を恥ずかし気もなく言っているんだと思いながら、口が動くのを止められなかった。頭の中では、僕は他のファンとも仲良くできるし危険な男じゃないし、ずっとずっと前から愛未ちゅんのこと見て応援しているんだよ、というのを自然に伝えようと組み立てていた。

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