小説

『宵待男』室市雅則(『宵待草』竹久夢二)

 しかしながら、はっきりと約束と言えない曖昧模糊としたものです。
 でも、彼女に会えるのならば、また明日もここに来ることにしました。
 僕は彼女を好きになったのです。
 彼女に会いたいのです。
 彼女と話をしたいのです。
 彼女を見たいのです。
 久しぶりにこういった感情が芽生えました。
 嬉しさと戸惑いが入り交じりました。
 僕にこんな幸運が舞い降りて良いのでしょうか。
 ため息をついて見上げた空には月は出ていませんでした。
 そして、今に時間が戻ります。
 あっという間に一日は過ぎたのですが彼女を待っている時間は長く感じます。
 しかし、昨日、彼女と出会った時間はとうに過ぎて、すっかり夜になっています。
 待宵草の花は咲き誇っています。
 でも彼女の姿はありません。
 嘘をつくような人には見えませんでした。
 あんな風にいきなり話しかけてくるぐらいですから、冗談は言いそうですし、それを真に受けた僕が悪いのかもしれません。
 いや、もしかしたら『また明日』ではなくて『また明後日』と言っていたのを僕が聞き違えたように思えて来ました。
 きっとそうです。
 僕の聞き違いです。
 だから家に帰る事にします。

 あっという間に一日が経ちました。
 今日も看板持ちの仕事で一日を終え、交差点で彼女を待っています。
 まだ彼女の姿は見えないので少し僕の仕事のお話をします。
 看板持ちはただ立っているだけです。

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