小説

『宵待男』室市雅則(『宵待草』竹久夢二)

 根元にはまだ土がこびりついており、口の中に土の味が広がります。
 思い出したくない味です。
 相川くんの顔が思い浮かびます。
 それでも噛み続けます。
 涙が出て来ました。
 花びらが横倒しに生えたままの親知らずに間に挟まりました。
 それを舌先で取り外し、飲み込みます。
 待宵草さんを食べ終えると、僕は靴と靴下を脱ぎました。
 そして、植込みに空いた穴の所に左足を突っ込みました。
 昨日の雨がまだ土の中には残っていてひんやりとしています。
 穴はひとつしかありませんので、右足はつま先で土をほじって穴を空けてから突っ込んで、植込みに立ちました。
 両足できちんと立っています。
 看板を持つ事も無く、そのままの自分で立っています。
 きっと彼女はどこかで僕の様子を見てくれているはずです。
 彼女が喜んでくれるなら、僕も嬉しいです。
 ここで彼女を待つ事にします。
 しかし、こうやって立ちますと癖で半眼になってしまいます。
 視界がぼやけてきました。
 熱のせいもあるのでしょうか、頭もぼんやりとします。
 全身が熱くて寒いです。
 目を瞑ってしまいました。
 全てがシャットダウンされます。
 暗闇です。
 風の音も消えました。
 口の中のざらつきも消えました。
 どこか遠くに行くように意識も薄くなって来ました。
 たった一つ念じているのは、僕がここで彼女を待つことだけです。
 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13