小説

『眠り姫とオフィーリア』乃波深里(『眠れる森の美女』/『ハムレット』シェークスピア)

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 ゆっくりと、目を開けると、視界いっぱいに広がるのは、いざ降らん、とばかりに輝く星空だ。澄み切った夜空に、これでもかと光の粒が瞬いていた。
 水中からそれを見ている、と気づいたのは、時々、さざ波のようにその星空が揺れるからだった。

 ああ、これはいつもの夢だ。
水面は、あたしの全身を埋めるほどに高くなっていたのだ。

 身体は、水の冷たさで凍えるようなのに、あたしは寒い寒い、と呟きながら動くこともせず、いつまでもその星空を眺めていた。
 これが、あのオフィーリアの見ていた景色だろうか、と思ったところで、オフィーリアはけして、この素晴らしい景色を見たことがないことに思いいたる。
 だって、彼女は、目を開けたことなど、ないのだから。

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 休日は、反対に10時間以上眠ることがある、と言うと、
 「なんでそんなに脳細胞を傷つけようとすんの」
 やっぱり多田は呆れたように言うのだ。
 「そのまんまじゃ、頭おかしくなるよ。睡眠の質で、人間のパフォーマンスが決まるようなものなんだから。決まった睡眠リズム通りにしたほうが良いって」
 多田の話に、科学的根拠なんてほとんどない。どこかで聞きかじった情報をつぎはぎして、あたしにありがたい啓示を告げようとするのだ。

 放課後の美術準備室に行くと、今日は珍しく、浮橋が先に来ていて珈琲を飲んでいた。
 あたしも欲しい、と言うと、内緒な、といって、彼はわざわざドリップ珈琲を淹れてくれる。
 「眠り姫って、寝てるだけで楽だよね」
 唐突な話題にびっくりしたような顔で、浮橋は笑う。
 「何、吉瀬もいつか王子様が、なタイプなわけ?」

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