小説

『種なし葡萄』おおさわ(『織姫と彦星』)

3年前は、東京に行かなければ未だに生きていたんじゃないか。って不毛な疑問から
今は、ひさしぶり手を合わせることになった不純な理由を探していて。
自分も老いていくんだと、当たり前のことに気づいては、スカートを押さえつつ。
もらった葡萄をカゴに入れ、実家へとペダルを漕ぐ。

3年の間で、10年の間で、老いたものを探しては、きりがない。
家で洗った葡萄を食べると、種が無いことに驚き母に尋ねると。
「いまは、どの品種もなくなってきたの」と言われ、もう一粒食べると“ガリッ”となり、
人間は葡萄にすら勝てないんだと、なんだか安心してみたりする。

実家には例年通り“帰ってきたと嬉しがられる6日間”いたわけだが、例年通りに、仏壇を安全祈願だったり、お悩み相談だったりと都合よく使っては、線香に火をつける。
すっかり秋になる福島から、まだまだ夏の東京に戻る。
温度が違うから、春と夏も、夏と秋も、秋と冬も、冬と春も。
温度が違って、隣どうしだから、分かりやすい現実に気づくのだ。
だから、春と秋の違いは?と聞かれると、紅葉とか、花粉とか、可しかもらえない回答をだしては、分かりにくい現実にきづくことになる。

古田は、面白い。
春と秋の違いも、元は古田の考えてたことだし。
水たまりで遊ぶ子どもを眺めては泣いていた。
「どうしたの?」と聞くと、「この子たちも、偏ってしまうのだろう。前を歩く人が傘を閉じたから、雨がやんだ。って」
テレビでサッカーの試合を見ていて逆転され負けはじめると電源を消していた。
「俺が、見るから負けてる気がする」なんてゴミ捨てに行った。
おじいさんの何回も繰り返される同じ話を聞いては真剣に頷いていた。
「年寄りが説教垂れてるんじゃなくて、若いのが耳を塞いでるんじゃないかな」
私がソファーで眠っていると、バスタオルを2枚かけてくれる。

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