小説

『犬が桃太郎の名を呼ぶ話』月山(『桃太郎』)

「これからもどんどん増えていきます。だから桃太郎さん」
「うん」
「私一匹貴方と共に旅に出ても、何も困ることはないのですよ」
「それでは、僕は」
「はい」
「一人ではないんだね」
「桃太郎さん」
「うん」
「桃太郎さん」
「うん」
「お腰につけたきびだんごをくださいな」
「ないよ」
「ありがとうございます、いただきます」
「ないって」
「もぐもぐごくんああおいしい。きびだんごを貰ってしまいましたから、もう貴方のお供になる以外ありません。さあ行きましょう桃太郎さん」
「……ありがとう」
「まずは食料を探しに行くとしましょう」
「なんだかすまないね」
「桃太郎さん」
「うん」
「良い名前をお持ちですね」
「――うん。ありがとう。自分でも、とても気に入っている名だ」

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