小説

『ブリコラージュ』柿沼雅美(『流行歌曲について』萩原朔太郎)

 おにぎりとサンドイッチ、カップラーメンに缶コーヒー、ビールを二本買って部屋に戻った。
 「おーありがとー」
 慶一郎は待ち構えていたように私の手からコンビニ袋を受け取って、テーブルに置いた。食べ物には手をつけず、ビールを開けて飲んだ。
 「敬子ちゃん今日仕事は?」
 慶一はラグの上に落ちるように座った。
 「今日土曜だからね、お休み」
 「そっか今日土曜か、そっかそっか、じゃあちょっとゆっくりしていきなよ」
 テレビを付けた慶一が、あっ、と言ってビールを持った小指で画面を指した。画面には舞ちゃんが映っていた。司会のお笑いコンビに、もうタレントさんでしょ? といじられて、いえいえいえいえ、と笑っていた。もうタレントさんだ、と思った。
 「昨日楽しかった?」
 私がコーヒーとサンドイッチを持ってラグに座り込むと慶一が言った。
 「楽しかったよ」
 サンドイッチを袋から出して袋を床に置いた。なんだかゴミもそのへんに置けちゃうような開放感があった。
 「ウッソだね」
 「うそじゃないよ」
 「いや、ウソだよ。敬子ちゃん昔っから何か言いた気な顔しても絶対言わないよね」
 慶一郎がビールを勢いよく喉に流した。喉仏がぐっと動く。
 「んーそうかな」
 「そうだよ。だいたいみんなそうなんだよなぁ。言いたいこととかやりたいこととかあるならちゃんとやりゃあいいじゃんって話でさ」
 「それがなかなか難しいでしょ」
 「ほらそれ、みんなそう言うじゃん。でもそれって絶対、勇気がないだけなんだって俺は思うわけ」
 慶一郎はビールの缶をメリメリメリィッと手で握った。
 「みんなの昨日の愚痴だってそうじゃん、同期より一番に部長になったとかさ、子供がピアノのコンクールで銀賞だったとかさ、なんか結婚式見せられてる気分だったんだよなぁ」
 「なんで結婚式?」

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