小説

『かなしみ』末永政和(『デンデンムシノ カナシミ』新美南吉)

「悲しい」という漢字を国語の授業で習ったときのことを、少年は思い出していました。
「みんなにはまだ早いけど、いっしょに覚えてほしい漢字があります」と国語の先生は言いました。黒板には、「悲しい」という字の隣に「愛しい」と難しい字が書かれていました。
 昔の人は、大好きな人や大切なもののことを思うとき、「愛しい」と書いて「かなしい」と言ったのだそうです。
「悲しみは誰もが持っているものです。私たちは悲しみをこらえていかなければいけないけれど、その先にはきっと、愛しみが待っているんですよ」
 そのときにはよく分からなかった先生の言葉が、ようやく理解できたような気がしました。少年はいま、自分の背中にはかなしみがいっぱい詰まっているのだと思いました。それはとても愉快なかなしみでした。

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コメント
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    題材も作品の雰囲気も、他作品とは少し違っていて目を引きました。原作を意識した語り口と、多感な少年を通して描かれる些細な日常がよくマッチしていて、穏やかな雰囲気で運ばれる作品です。最近では長めのショートショートが多い中、無駄なくコンパクトにまとめられている形は美しいとも思いました。思いがけない結末やオチがあるわけではないけれど、良い意味でシンプルかつ真っすぐなショートショートだと思います。(9月期優秀賞受賞者:長月竜胆)

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    簡潔な文章でとても良かったです。映像が脳裡に浮かびました。(9月期優秀賞受賞者:広瀬厚氏)

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    「ランドセルの中にはかなしみが詰まっている。だから重い」という導入が好きです。短いストーリーの中にも、我儘になりきって赤ちゃん返りできない、少年の「良い子」であるが故のかなしさと、家族愛が込められていて素敵でした。文体も上品で優しさと安心感がありました。(9月期優秀賞受賞者:園山真央)

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    とてもまっすぐな作品で、絵本になりそうだと思った。(9月期優秀賞受賞者:柿沼雅美)

  • 羊時計

    この作品をきっかけに元の作品を初めてよみました。ありがとうございます。子供が読んで子供が救われる作品は貴重だと思います。大人になるとこういう痛い思いではなかったことにしてしまうから、子供の気持ちがわからなくなります。でも大人になっても覚えていて子供のことをわかってくれる人がいるんだなと思いました。愛しさについての見解も素敵です。