小説

『エナイ』和織(『ルンペルシュチルツヒェン』)

 彼はしゃがんで、猫を少年へ差し出してやった。少年は恐る恐る猫に触れた。
「かわいい。ふわふわ」
 徐々に慣れてくると、少年が「抱っこしたい」と言ったので、彼は少年に猫を抱かせてやった。
「この子名前はなんていうの?」
「・・・名前?」
「なんていうの?」
「なんだと思う?」
「えぇ・・・うんとぉ」少年はクリっとした目を見開く。「ゴン?」
 彼は首を振る。
「じゃあ、タマ?エビゾウ?」
「エビゾウ?」
「おばあちゃんが好きなの」
「・・・そう」
「なんていうの?教えて」
 少年の目の中に、ブチの猫が移っている。そんなに欲しいのか、これが。と思ったのと同時に、彼はその悪戯を思いついてしまった。
「名前当てられたら、この子、君にあげる」
「え、本当?!」
「うん。でも三日以内ね。これから三日間、同じ時間にここへ来られる?」
 少年は勢いよく何度も頷く。
「じゃあ約束だ。三日のうちに当てられたら、この子は君のもの。でも、これは秘密だよ。この話をもし他の誰かにしたら、この猫はいなくなっちゃうからね」
「え、どうして?」
「本当は、ここで猫を飼っちゃいけないんだ。だからバレたら、お兄さんはこの子をどこか別のところへやらなきゃいけない」
「わかった。誰にも言わない。秘密」
「あとね、名前が当てられなかったら、君に罰ゲームがある」
「えぇ、罰ゲームぅ?」
「罰ゲームがなきゃ、つまらないだろ?その分、頑張ろうって気にならない?」
「うーん、わかった」

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